週刊少年〇〇掲載、原作:◇◇
ドラマ『逢魔の扉』劇場版 制作決定!
先行上映 プロモーション映像公開
主要キャラ キービジュアル公開
「槙の中将と、一番弟子の暁くんだよ。」
「鎮冥(しずめ)さん。」
「鵺くんの妹さんだよ。蘇芳さんチのヒタキちゃん。」
「え?」
「鵺くんの行方が知れないそうだ。」
「それって……?」
◇◇
週刊連載の少年マンガ『逢魔の扉』という人気作品を
若手俳優を起用して実写ドラマ化したところ、珍しくも大きに受けた。
サブスク限定などという視聴者確約でもない地上波放送だった上、
週末でもない曜日の深夜枠放映だったのに、
ほぼほぼクチコミだけで広まってのあっという間に爆発的なヒットをし、
見逃し配信がパンクしそうな勢いでの贔屓を生みまくった、今や超話題作となっている。
所謂ダークファンタジーというジャンルで、
咒とか呪いとかにまつわる様々な怪物や魔物が闇の中から現れて、非力な一般人に襲いかかるホラー系。
結構残虐なシーンも多く、観る人を選ぶんじゃないかと言われていたが、
今どきの若いのは魂とか霊性とかいうスピリチュアル系の知識も結構あるし、
ゲームなどでも、直接物理で叩き合う格闘ものだけじゃあなく、
魔法で絶大な効果を出すという要素へも早くから接しており、
そこいらは抵抗なく理解できて馴染みも早い。
かてて加えて、負の存在だの咒の術式だのという世界観が丁寧に作られており、
出演する俳優たちも個性的なキャラクターにそれは馴染んでいての受けが良く。
原作でも人気があった主役格の青年たちが、最近話題のイケメンたちだとあって、
漫画は知らない、ドラマから観だしたという層にも爆発的に支持された。
「鎮冥がイメージ通りなのよね。」
「わたしは断然 鵺くんいち推しvv」
「え〜、お元気な暁くんだよぉ。」
「なになに、中将様贔屓はいないの?」
そもそもが紙の上に描かれた二次元の存在だし、
行間を読むという言葉があるが、
具体的な姿を描かれていてもなお、
読む人それぞれに印象とかイメージとかが違って当然。
何なら原作者の描いたものでも、
いいや〇〇君はそうじゃないなんて齟齬が起きることも珍しくはなく。
どれほどのイケメンが演じようと、万人が受け入れるなんてまずはあり得ないはずが、
メインとなる青年たち4人にはヘイトがまるで寄せられぬ。
20代前後という若い彼らだが、それはそれは個性的な顔ぶれで。
俳優としてそれぞれなりに実績を積んでもおり、
このドラマからそれぞれが出演しているドラマや映画を観るようになったなんていう
逆流現象も起きているらしく。
そんなこんなで
途轍もない視聴率を稼ぎまくるわ、関連グッズは予約段階で即日完売しまくるわ。
トークショーなど催せば、
チケット獲得の競争率は半端なアイドルの握手会なぞ追いつけはしない確率となったりし。
今時には珍しい3クールという長丁場になったのも、その好評さからの引き延ばし。
尺が足りないのでと泣く泣くカットした場面の脚本を活かせると、制作側はむしろ喜んでいたらしく、
それだけでは収まらない勢いが波及して、
『劇場版の制作が決定したらしくてね。』
極秘に制作準備が進んでいたらしい長編劇場版。
陰謀渦巻く地上世界を舞台に展開されるシナリオだそうで、
原作者も脚本のオブザーバーを務める格好の、所謂“公認番外編”になるらしい。
本編の敵である負の世界の存在が裏にいるらしいことを匂わせていたりもしつつ、
本編ほどガッチガチな異郷ファンタジー風の拵えではなく、
繁華街を舞台に、主人公たちへ様々な魔物が襲い来る活劇ものだとか。
……で。
そんな新作の収録が始まったばかりだというに
主役である暁少年を演じる中島敦くんが撮影中に事故に遭って怪我をした。
スタジオに設置されたセットの不具合が原因で、
咒獣が発生した場所を訪れて、
濃厚な魔素により異様な無限次界になった中、
特殊な術式で魔力をまとわせた拳で叩いて手刀で裂いてと、
退魔活動をしていたところ…という活劇場面の撮影だったのだが、
「敦っ!」
「うわっっ。」
プロジェクションマッピングで幻想的な世界を映し出していた“土台素体”の部分の接合が甘かったらしく、
跳躍後の着地の体重をかけた足場が外れて落ち、
スタジオの一角を埋める、ちょっとした小山ほどはあったセットが呆気ないほどガラガラと崩れた。
手すりや手がかりのない匣体だったものだから、そのまま敦も落ちかかったのを
至近に居合わせた先輩格の中原氏が咄嗟に腕を掴み、
力自慢を発揮して安定している足場側へ引き寄せての抱え込んだので、
高所からの落下とかいった大事には至らなかったものの、
「左手の小指の骨にひびがいってるそうです。」
「……ほほぉ。」
落ちなかったしどこにもぶつけてはないので、
当人は大仰なと遠慮したのを救急車で運ばれた先、救急外科医の診断によれば、
頭や脊髄、四肢といった部位は特に打撲や捻挫を負ったような状態ではなく。
ただ、そんな先っちょというか端っこというかなところが置いてけぼりを食ったようで。
匣体同士を蝶番でくっつけていた隙間に挟まれたそのまま、
セットの重量がそこへと掛かっての圧迫骨折だそうな。
「何と言うか…。」
なかなかに微妙。
はっきり言って日常生活だけならならさして不都合もないかもしれぬ。
ただ、突き指や捻挫よりは重傷だし、何より活劇主体の役なので、
拳がそのまま武器代わりというシーンは多い。
まさかに実際に力いっぱい殴ってはないので、渾身の拳を繰り出すわけじゃあないにせよ、
何か誰かを目がけて突き出す拳なだけに、握り込んだら痛かろう。
ぽすんとでも当たればじんじんと響くやもしれぬ。
何かに掴まったり、片手をついて逆立ちになっての伸びあがるといったアクションも山ほどあって、
些細な違和感でも痛みでも、気を取られては更なる事故を招きかねない。
「大丈夫で…。」
ご迷惑はかけられないし、このくらいは日にち薬で時間が経てば収まると、
怪我を負ったご本人は診察台で身を起こしつつ笑ってそう言ったが、
ギプスで固めるほどじゃないとした、添えの金具に固定すべく、
包帯でぐるぐる巻きにされた痛々しい手を見るに、
「見学だな。」
「何ならナレーションを先に撮るというのはどうだろう。」
「そうですね、モノローグとか結構ありますし。」
だから、何でそういう采配を共演者のお兄ちゃんたちが先に言い出すかねと。
タイプは違うがどなたも弟分が可愛くって仕方がないとする彼らの円陣へ、
遅ればせながら駈けつけていたマネージャーや監督やスタッフたちが
苦笑しつつも“さもありなん”とその方向で収まったのもお約束。笑
「いいかい、敦くん。
暁役は前衛担当だからね、術を使うより格闘が主体になっている。」
一応は主役なだけに、クライマックスでは秘めたる力を発揮する段取りになっちゃあいるが、
そこへと至るまでは、最年少のお元気ボーイという役どころ。
なので、いつまでもじわじわといじめる格好で患部を痛めて長引かせるよりも、
「きっちり完璧に治すのを優先としなさい。」
「…はい。」
顔立ちもシャープな肢体もいわゆる都会風優男の外見ながら、
芝居には厳しいし、結構辛辣な言いようもなさる太宰さんから、
大振りの手を肩に乗せられてお顔をわざわざ至近から覗き込まれ、
いいお声でそんな風に念を押されては、
“誰が逆らえましょうや。”
いい男のお顔って同性へも重々威嚇できる武器になるんだなぁと、
敦くんが身をもって知った初めての体験だったそうな。
◇◇
テレビ局内の収録スタジオで起きた事故だっただけに、
出入りする人も多くて、その分やじ馬も結構集まったようで。
好奇心から寄ってきた連中を緊急だと掻き分けて寄せ付けず、
治療のためにと少年を迅速に運び出せたお兄ちゃんたちの連携はお見事だったと言えるのかも。
当該者はいない現場では、セットを担当していた面々が顔を青くして検証にあたっており、
不正の無いようにと誰かが釘を差したらしく、警備員とは違う制服姿の係官の姿も見える。
「何の騒ぎだい?」
事故が起きてからは時間も経過しているせいか、禁足とだけの処置がとられた現場には、
人づてに聞いて来たよな野次馬しか寄って来なくなりかけていて。
それでも人垣は出来ていた外側、通りすがったらしい男性が先にいた顔見知りへと声を掛けている。
尋ねられた側の男性は、ラフな格好でいるところからして事務方というより現場のディレクターのようだったが、
「セットが崩れたって事故ですよ。」
俳優さんが巻き込まれて怪我をしたとかどうとかで、と、
そこは局の責任問題になりかねないからか声をひそめた彼だったが、
「最近の美術の外注先って、藻部田さんの紹介ですよね。」
装置や背景、大道具・小道具などは、
局内の美術班が担当する場合と、専門職のいる外注になるケースがあり。
今回の場合は外の制作会社に発注した代物だったらしく。
そこいらにも通じていた若いのが声をますますと潜めて、
「事情聴かれますよ。」
そんな風に忠告したものの、言われた側は、
「馬鹿言え、俺ゃあ顔をつないだだけだ。」
有り得ねぇってと軽く笑い飛ばして見せる彼は、
そういった外注発注などへ顔が利くクラス、チーフ格くらいには上の人間であるようで。
そんな重い話にゃあならねってと、誰への言い訳なんだか正論めかして言ってのける。
とはいえ、
“そうは言うが、予算の中抜きなどあんまりいい話は聞かれないよな。”
こういう業界ではそういう小狡さもありなものか、
直接やり取りしていた相手だけじゃあなく、
居合わせたほかの面々もどこか胡散臭いものでも見るよな顔になっており。
そんな空気もどこ吹く風か、
「怪我したって誰よ。芸人か?」
体を張ってるポジションと言えばと、単純にそう思ったらしく、
笑い飛ばしてやんよというよな言いようで訊いて来た。
だがだが周囲の皆はまさかまさかと慌ててかぶりを振って、
「違いますって。今物凄く話題になってる俳優の中島敦って子です。」
廊下に貼り出されてあった番組のポスターを指さしたのは別のアシスタントだったが、
「ああ、あいつか。」
ちらと見やっただけで、知ってる知ってるとやはりお軽い納得顔を見せ、
去年だったか、俺が担当してた「黒子をゲット」って鬼ごっこ番組にゲストで出してやったことあんだよな。
顔を売りたかった新人枠じゃあなかったか。
その割に出待ちの若い女の子らが随分たむろってて意外だったけど。
へらりとそんな言いようをし、
何だあいつかぁと、さも大したことはないと言ってのけたものだから、
「……そうっすかねぇ。」
見識が甘いなぁとかどうとか、思っちゃあいても口には出せず、
微妙なお顔になった現場の方々だったようでございます。
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*早速にもお兄ちゃんたちの過保護が炸裂です。笑
タクシーで充分だろうに、
迅速な手当てをというのと、一般の待ち合いでは人だかりが出来ようからと、
救急車を呼ぶあたり…。(良い子は真似しちゃいけません。)

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